トラウマからの解放 眼球運動(EMDR)を用い記憶整理

投稿日:2023年8月28日

新聞記事から。

夫は優しく、経済的にも恵まれている。それなのに、自分はダメ人間。もう消えてしまいたい――。

兵庫県の30代の事務職員C子さんは、2021年6月ごろから、夜、眠れなくなった。精神科医院で処方された睡眠薬を飲んでも改善しない。やがて働けなくなり、うつ状態に陥った。

そこで同年9月、兵庫教育大教授で公認心理師の市井雅哉さんのカウンセリングを受け、それまでの人生を一緒に振り返った。

1歳の時、両親は離婚。家庭を顧みずに若い女性と遊び歩く父親と祖父母と暮らした。

小学校低学年のころには、同級生の女子に陰湿ないじめを受け、仲間はずれにされた。

中学生の時、夏休みの思い出の絵が描けず、「お母さんがいたら違ったのかな」と言うと父に拳で顔を強く殴られ、腫れた顔で始業式に出た。

大学時代は、一緒に暮らした彼氏が自分勝手な「モラハラ男」で、帰省させてくれない、友人に会うための外出もさせてくれない、などの束縛を受けた。殴る蹴るの暴力も振るわれた。

うつ症状の背景にある、これら〈マイナスの記憶〉を処理するため、市井さんから提案されたのが、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)というトラウマの治療だ。

水平方向の眼球運動を繰り返すことで、恐怖と結びついたトラウマ記憶を再び処理過程に乗せ、冷静に振り返ることのできる古い記憶へと移行させることを狙う。記憶を整理する「レム睡眠」に似た活動が脳に起きると考えられている。つらい記憶を詳細に語る必要がなく、患者の心理的負担が少ないのが特徴だ。

C子さんは、1秒間に1~2往復ほどの速さで左右に動く光を目で追いながら、小学校時代のいじめを思い起こした。25~30往復で1セットが終わると、市井さんから「何に気づきますか」などと尋ねられる。

「自分には母親がいないのでこんな目に遭うのかな」「では、今のあなたならその時の自分に何と声をかけますか」「あなたは悪くない、って言います」「では、その気持ちとともにまた光を追ってください」。C子さんは指示に従った。

市井さんに促され、大好きな宝塚のスターが自分にかける言葉も想像した。「あなたの不幸を喜ぶ人に、あなたの価値を決めさせてはいけない」。まるで、本当に励まされたように感じた。こうした作業を繰り返すうちに、いじめを思い出してもつらくなくなった。

「つらい記憶を呼び起こし、プラスの要素を混ぜてから、脳に戻す。これで記憶のマイナス要素が薄まり、とらわれることがなくなります」と市井さん。他の様々な記憶も扱い、10回で治療を終えたC子さんは「今は本当に楽になり、治療前とは別人になった気分です」と話している。

(2023.8.21 読売新聞から。転載。)

大学院でお世話になった市井先生の記事を見て、懐かしく紹介させて頂きました。トラウマ治療に、多くのエビデンスをもって、効果を上げているEMDR治療について、改めて注目します。

神戸こども心理相談室で、EMDR治療を実施したことはありませんが、今後、ニーズに応えられる準備をしたいと思います。

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