大人げない

投稿日:2024年12月7日

中学2年生の数学のクラス。 最後列のA君は、授業が始まって5分程経過しているが、教科書もノートもまだ机上に出ていない。 ごそごそ机の中に手を入れて、何かをしている。

授業中は、ほとんど学習には参加せず、何かに夢中になって過ごしていることが多い。 さすがに、授業が進んでくると、本読みや、先生からの簡単な問いかけに応えなければならない場面となる。 その頃は、いつのまにか教科書を広げ、ノートも準備している。 要領は良い。

私は、その時は数学のTT教師として教室に入っていた。 TT教師とは、教壇前で授業の講義をしている先生と一緒に教室に入り、教室の後ろから生徒を見ながら、困っている生徒に近づいて行って、個別にサポートする教師のことである。

A君は、数学は苦手で、中2の内容はほとんど理解できていない様子である。 近づいて、考え方や計算の仕方をアドバイスするが、なかなか伝わらない。 そのうちに、私が近づくと、手の甲で、向こうに行け(来るな)の合図。 「俺は、今教えてもらいたくない」という態度だ。

<何故? >と思ったが、漸くして理解した。 小声で、アドバイスをするが、理解できない彼は、「教えてもらっても分からない自分が嫌なのかもしてない」「僕が(数学が)できないのは、やる気が無くて、やらないから(出来ないの)だ。」と言っている様に見える。

 

授業中には近づけない彼はとは、休み時間は別である。 彼の方から近づいてきてチョッカイをかけてくる。 態度は横柄だ。 ある時、彼と相撲をすることになった。 柔道の有段者である私は、小柄な彼には、どう考えても負けそうにない。 でも彼は、強気である。

案の定、4つに組んだが、全く圧力はない。 いつも態度のでかい彼には、この機会を通して勝って、力の差を見せつけておかねばならない。 そう思った私は、少し本気で投げ技をかけた。

軽量の彼は、1回転した。 怪我をさせてはいけないので、最後は、ソフトランディングさせて終えた。

   その瞬間彼が発した言葉が。 「大人げない」だった。

彼も、体力差からも自分は勝てないと分かっていた。 でも、大人の私は、彼に花を持たせるだろうと考えていたのだ。 それを私が、本気で投げたので思わず発した言葉だ。

 

でも、不思議なことに、その後、彼は授業中に私が近づくことを拒否しなくなった。 むしろ、積極的に私に頼るようになった。 テストの翌日の数学の時間、「今日は、授業でなく、クイズ大会にしょう」と担当の先生が提案して、クイズ大会になった。 結構難しいなぞなぞのようなクイズであったが、A君が大活躍した。 数学は,大の苦手だったが、常識を少し捻らなければならないクイズにその才能を発揮した。

私は、正直、人の評価は絶対に一元的であってはならないと、痛感した。

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